「隷属なき道」を読んだ感想~ベーシックインカムの印象が大きく変わる~

「隷属なき道」を読んだ感想~ベーシックインカムの印象が大きく変わる~

「隷属なき道」とは、ルトガー・ブルグマンという1988年生まれの若きオランダの歴史学者が著者となっているビジネス書。世界20カ国で出版されており、日本語版は2017年に出版された。

サブタイトルは「AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働」であり、ベーシックインカムの重要性を説くとともに、労働時間の減少や国境線の解放という要素を軸にして、今後の世界経済をさらに発展させ、(AIに隷属しない)より豊かな社会生活を送るための著者の主張が記されている。

本書を読み進めていくと、きっと多くの人がベーシックインカムのイメージに対して、大きな変化が生まれるのではないだろうか。もちろん悪い方に変わるのではなく、良い方向に。

本書の感想を、書籍に記載の内容を交えながら、以下に記していきたい。

 

ベーシックインカムがもたらす効果

昨今ではベーシックインカムについて、あらゆる場所で議論が繰り広げられており、その単語自体を耳にする機会も増えてきた。だがベーシックインカムに対するイメージはどうだろうか。きっと多くの人は、あまり肯定的なポジションにはいないと思う。

ベーシックインカムが導入されることになれば、私たちの生活基盤や社会構造がガラッと様変わりすることになる。問題なのはその変化がどのようなものになるか予測できないということだ。ベーシックインカムとは未知の脅威になり得るため、それ故に多くの人は否定的なポジションになるのであろう。

ただこうした社会現象はこれまでにも似たような事例はいくつもある。本書でも取り上げていたが、奴隷制度の廃止、女性の参政権、同性婚などと同じように、我々の常識や社会基盤を大きく揺るがすようなアイデアは、いつだって畏怖され、敬遠されるものなのだ。

そしてベーシックインカムに関しては、これまでに世界のあらゆる地域にて実証実験がなされてきたという経緯がある。そこで本書では、いくつもの実証実験の結果データを元にして、ベーシックインカムの可能性について言及している。それがどんなことかと言うと、ベーシックインカムを浸透させることで、貧困は撲滅され、プラスの経済効果が生まれるというものだ。

 

貧困は撲滅する

本書ではベーシックインカムを導入することで、世の中から貧困問題が撲滅されると説いている。貧困層が貧困である理由は、お金を稼ぐ能力のない馬鹿者というわけではなく、ただ単に自分の環境を変えるためのまとまったお金がない故に貧困から脱せないという。

それを証明するために、過去にロンドンのホームレス13人に対してベーシックインカムを給付した社会実験の例を挙げているのだが、多くのホームレスはベーシックインカムによるフリーマネーをギャンブルや嗜好品などに使うことなく、電話や辞書、補聴器など、生活を良くするための必需品を購入したという。

そして13人のホームレスの半分以上は実験開始から1年半後に、屋根のある住まいで暮らすようになったというのだから驚きだ。多くの人が想定するような結末を、良い意味で裏切ってくれた結果となっている。

その他にもアメリカのユタ州やオランダなどでホームレスを対象に無償の住まいを提供したり、カナダのミンカムにて大規模なベーシックインカムの実験がされたりしているが、どれも良い影響をもたらすことが証明されている。ベーシックインカムは決して人を怠惰にさせる悪い薬ではなく、貧困を撲滅するための画期的施策と十分になり得るのである。

 

社会福祉にかかるコストを抑え、新たな経済効果が生まれる

世の中にはびこる貧困から人々を救済するために、あらゆる社会保障プログラムが実施されているわけだが、そこには多額の社会保障費が使用されている。その財源も我々の税金からまかなっているので、そこにかかるコストを抑えながら、より良い効果が生まれるなら申し分ない。

教育、犯罪、栄養失調などの問題は分かりやすい社会保障であるが、こうした問題も突き詰めれば貧困が原因となっている。そして貧困は先に説明したように、ベーシックインカムの導入によって解消できるという。それも従来の社会保障にかかる費用と比較して、大幅にコストを抑えてだ。

社会福祉にかかるコストを抑えた上で、教育、犯罪、栄養失調などの問題が解決され、経済成長につながるということになれば、ベーシックインカムは魅力ある施策であることに間違いない。

 

労働時間の減少と国境線の解放

本書ではテクノロジーが発展し、もはやテクノロジーの利用を無視できない現代社会において、AIに隷属することなく豊かな社会生活を送っていくには、労働時間の減少と国境線の解放についても大事なことであると主張している。

確かに労働時間に関しては週40時間というのがここ数十年の常識で変化はない。しかしこれもAI技術などのテクノロジーの発展により、人を介入しない仕事が今以上に増えることになれば、必然的に労働時間は減少に転じていくだろう。

国境線の解放についても、アメリカのトランプ大統領はじめ、昨今では右寄りの指導者が台頭しているため、よりクローズドな世界となっている。テクノロジーはグローバル化しているので、あとは政治面が真のグローバル化を果たせば、貧困は撲滅され、世界の富の総量も増大することだろう。

 

ベーシックインカムと国境線の解放に関してはとても面白いアイデア

とにかく本書を読んでいると、ベーシックインカムに対するイメージががらりと変わる。どうしてもベーシックインカムのようなフリーマネーは「人々から労働意欲を奪い、より怠け者にさせる」といった負のイメージがついてまわるが、本書で提示される数々の社会実験を知れば知るほど、人は意外と真面目に物事を考えられる生き物であると思い知らせてくれる。

もちろん提示されているのは、一部の地域で実施した社会実験であり、著者が主張するように、国境線を解放し、全世界でユニバーサルベーシックインカムが実施されれば、世界がどのような動きを見せるのかは誰にも分からない。

ただ昨今は従来の資本主義的思想が限界を迎えているだろうと思うことも多く、これからの世界経済を考えていく上では、大きな変革が生まれることは必須である。奴隷制度の廃止、女性の参政権などと同じように、ベーシックインカムが”常識”にまでくる時代になれば、人類史は新しい局面を迎えるはずだ。

そして何よりもユニバーサルベーシックインカムを導入し、豊饒の地、ユートピアとなった世界を生きてみたいと思う。そうした意味では、僕自身もベーシックインカムに対して、非常に良いイメージを持つようになった。

 

おわりに

ベーシックインカムはこれから議論されることも多くなるだろう話題の一つのため、これからの経済を考える上でも、読んでおいて損はない一冊だ。著者の主張が正しい・正しくない、賛成できる・賛成できないではなく、思考の幅を広げてくれる役目を担ってくれるはずだ。

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